初期のD-projectは、まさに手探り状態。中川先生の呼びかけに応えて全国から集まった40人の小・中・高の先生方と大学の研究者がワーキングチームを作って、デジタルメディア利用したさまざまなプロジェクトに取り組みました。そんな中、見えてきたものが、デジタルメディアを表現したりコミュニケーションするために活用すれば、子どもたちの発想力や企画力、表現力といった「豊かな学力」の育成に有効だということです。
デジタルメディアの最大の特徴は、試行錯誤が簡単なので、何度でもやり直すことができるということ。実はこのことが、これまでの授業を大きく変える力を持っていることがわかってきました。これまでも画用紙や模造紙に手がきで描いて発表するという授業は行われてきましたが、やり直しが大変なため、発表しておしまいになることが多かったようです。発表した後に、みんなから評価をしてもらっても、「いまさら言われても直すにはもう一度最初からやりなおし」ということで、ついつい他の人の意見も批判を受けているように聞こえてしまいます。
デジタルメディアでは、子どもたちもいくらでも手直しがきく、やり直しができるということがわかっているので、人の意見を聞くときにも、「言われてみるとその通りだから、その意見を取り入れて手直ししてみよう」というように、前向きに聞くことができるようになり、これまで難しかったブラッシュアップという過程を授業に組み込むことが可能になります。このことが、何かを伝えようとするときに、伝える相手を意識するということにつながっていくのです。
このことを最もよく示している実践が、本書のメディア創造力を育む授業で紹介している2002年度に行われた「ホンモノパンフレット制作」プロジェクトでした。この授業では、私はクライアントとして子どもたちに接し、子どもたちが作ったパンフレットに何度も何度もダメを出し続けたのですが、最後の最後の段階で、できることならもうちょっと手直ししたいという部分が一箇所出てきました。そのとき私は、「ここまで何度も何度も手直しをしてきたことだし、かわいそうなのでこれくらいは目をつぶろうか」と思い、指摘をしなかったのですが、子どもたちの方から、気に入らないところがあったので直しましたといって、まさにその部分を手直ししたものが届いたのには本当に驚くと同時に、そんなに真剣に取り組んでくれている子どもたちに対し恥ずかしい気持ちになりました。この実践から数年がたち、進学先の中学校の生徒会のメンバーがこの子たちで占められていると聞いたときも、さもありなんと思ったものです。
この実践は2005年度からのユネスコ・世界寺子屋運動リーフレット制作プロジェクトに引き継がれ、今も毎年1,000人を越える児童・生徒が、人に何かを伝える難しさに挑戦し続けています。
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