では、メディア創造力を発揮する授業デザインの姿とはどういうものであろうか?
事例1:紙面で伝えるために特徴をつかませ、考えさせる
光村図書出版小学校国語教科書6年上巻に「相手や目的に合わせて書こう ガイドブックを作ろう」という「書くこと」の単元がある。11時間扱いで、いろいろなガイドブックを集めてその構成や材料の選び方の特徴をつかみ、実際に自分でガイドブックを作成するという構成になっている。
ガイドブックを実際に作るためには、見つけてきたガイドブックを見て、その特徴をつかむところが大切だ。「全体の構成はどのようになっているか」「写真や図の使い方にどんな工夫が見られるか」などの特徴をつかませるとともに、「何を伝えたいガイドブックなのか、それはどこから伝わってきたかなどについて話し合わせてみる」「文章、画像(写真、カット、地図など)、色づかいの工夫についてワークシートに書かせる」「同じジャンルの他のガイドブックと比較して考えさせる」など、具体的な指導までふみこみたい。
ガイドブックやパンフレット作りでは、相手意識とシチュエーションをしっかりとおさえていなかった場合、すべての活動があいまいになってしまう。この相手には、この写真や文章が通用するのか、検討の場を保証すべきだし、教師サイドで適切な評価の観点をもっている必要がある。さらに、実際に手にとってくれるのかどうかリアクションを得る場の設定も必要だ。パンフレットなどは「手にとってもらってなんぼ」の世界だ。そのような状況は国語の時間だけで確保できないことも考えられるので、たとえば総合的な学習の時間の学習活動との具体的な関連で、どのように授業をデザインできるかがポイントだ。
制作活動の過程で、子どもそれぞれの思いがあるので、選ぶことも、順番を決めることも難航が予想される。しかし、ディスカッションしながら結論をださなくてはならない過程が大事なのだ。これら、「映像と言葉を往復させること」「建設的妥協点に迫ること」をメディア創造力では大事にしている。
事例2:思いもよらぬ子どもの行動を受けとめる教師の力量
横浜市立大口台小学校の佐藤幸江教諭は「指導書通りに授業を流す教師が多いが、子どももちがえば教師の思いもちがう。同じ単元、同じ教材でも、アプローチは変わる。自分は毎年、子どもに合わせて学習活動を大きく変える」と指摘する。
小学校1年生国語の題材において、絵本からイメージを広げ,音読劇にするという授業である。まずは導入で子どもたちが夢中になる「しかけ」が必要だ。佐藤教諭は,絵本選びに力を注いだ。教科書を活用することもできたが,一人ひとりの子どもたちが自己を投影できる登場人物がたくさんいるという点,ストーリーが単純であるが「比較する」場面があるという点,また何より子どもたちが絵にのめり込めるような情感あるものをという点から「お日さまパン」(金の星社)を選んだ。さらに,子どもたちが意欲をもって取り組めるように,「今度の授業参観で,1年生になったことをおうちの人に見せようね」と提案したのである。
相手意識・目的意識をもつことで,子どもたちは電子情報ボードに大映しにされた絵本の中の動物の表情や動きに注目し,自分なりのせりふや動きを創造していったのである。そのプロセスで,「大きな声ではっきり話すこと」や「身ぶりや手ぶりで表現すること」が課題となった。
家で何回も練習してくる子やグループで練習方法を工夫する姿も見られるようになり,教師はそのような個のがんばりや工夫をみとり,全体に紹介し,他の子どもたちへの意欲付けや評価の基準としていったのである。入学してまだ1か月の子どもたちは,授業参観で大きな拍手と「幼稚園のときより,にこにこしていて自信をもってできていたね。」という賞賛の言葉をいただき,大きな満足感を得た。それにより,「お日さまパン」が大好きになり,図工の砂遊びで「お日さまパン」を作ったり,生活科であさがおの水やりが問題になったときに,「お日さま」の力のすごさが話題にのぼったり,さらには家で「お日さまパンクッキー」を作る子どもたちまで出現するというように,ゴールが果てしなく広がっているという。
子どもたちが自分なりの発想や創造性、柔軟な思考を働かせるためには、導入がとても大事だ。ここで夢中に取り組めるような「しかけ」がなければ、結局、教師に「やらされているだけ」になりかねない。また、最初に目的意識を明確にした上で、途中で必要以上に教師が出ない、ことも重要だ。細かい要望を教師から押し付けられると、特に低学年では教師が子どもたちの創意工夫場面を台なしにしてしまうことにもなる。さらに、自己を見つめ、きり拓いていく力がどのように育ったかを子どもたちの様子からしっかり見取るということも重要なポイントだ。教師には、教科や総合のねらいが「ものさし」としてあるが、メディア創造力は教科を超えて培っていくものだ。思いもよらぬ子どもの行動を受けとめる教師の力もメディア創造力では要求される。
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