デジタル表現研究会
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D-projectのあゆみ

D-projectの始まり


2001年の夏、当時金沢大学の助教授だった中川先生と私は、とある教育系新聞社主催のパネルディスカッションのコーディネーターとパネラーとして出会いました。その折、中川先生から、「一緒に教育プロジェクトをやってみませんか」とのお誘いを受け、「いいですね。やってみましょう」と二つ返事でお受けしたのがD-projectの始まりでした。当時私は、アドビ システムズ 株式会社の中に新設された教育市場開発部の部長になったばかりで、中川先生がどういう方で、これまで何をしてこられたかもよく知りません。「やってみましょう」とは言ったものの、さて何をやってみるのか、皆目見当もつかない中でのスタートでした。
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D-projectの「D」が意味するもの


しばらくして中川先生から提案いただいたプロジェクト名がD-project。研究会の名前はデジタル表現研究会でした。先生いわく「D-projectの“D”は「デジタル(Digital)」と「デザイン(Design)」の2つの“D”をあらわしているとのこと。当時私が勤めていたアドビ システムズは、人と人とのコミュニケーションを豊かにするためのツールを提供することを社是に掲げるソフトウェアメーカーで、Photoshopなど、プロのデザイナー向けの製品を中心に展開していましたから、まさに「デジタルデザイン」。そういうことかと思いましたが、中川先生の考えはそうではありませんでした。

2001年当時、教育界をにぎわせていたのは、総合的な学習の時間の導入と、コンピュータやインターネットといった教育の情報化とそれにともなう情報教育をどのように行っていくかということ。一つ目のDはこの情報化をどのように行っていけばよいだろうかという問題意識から来ています。当時の状況を振り返ってみると、コンピュータを授業に取り入れただけで新しい実践発表になるくらい、情報機器に振り回されていたように思います。そんな中、もう一つのDは、デジタル機器にふりまわされることなく、子どもの学びをみつめて授業をデザインしていこうとする姿を表したもの。D-projectは、その生い立ちから、授業観や学力をその中心テーマとして出発したのです。

ここに、D-projectのロゴがありますが、この二人に名前があるのをご存知ですか?(知っているという人はかなりのD-project通ですね)。小文字のdはディジーといって子どもたちを、大文字のDはデジーといって先生を表していて、ぴったりと寄り添い、未来に向かって笑顔を向けています。そして、スローガンは「つくろう、ニホンの教育フューチャー」。日本の教育を本気で変えようとスタートしました。
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D-projectで見えてきたこと


初期のD-projectは、まさに手探り状態。中川先生の呼びかけに応えて全国から集まった40人の小・中・高の先生方と大学の研究者がワーキングチームを作って、デジタルメディア利用したさまざまなプロジェクトに取り組みました。そんな中、見えてきたものが、デジタルメディアを表現したりコミュニケーションするために活用すれば、子どもたちの発想力や企画力、表現力といった「豊かな学力」の育成に有効だということです。

デジタルメディアの最大の特徴は、試行錯誤が簡単なので、何度でもやり直すことができるということ。実はこのことが、これまでの授業を大きく変える力を持っていることがわかってきました。これまでも画用紙や模造紙に手がきで描いて発表するという授業は行われてきましたが、やり直しが大変なため、発表しておしまいになることが多かったようです。発表した後に、みんなから評価をしてもらっても、「いまさら言われても直すにはもう一度最初からやりなおし」ということで、ついつい他の人の意見も批判を受けているように聞こえてしまいます。

デジタルメディアでは、子どもたちもいくらでも手直しがきく、やり直しができるということがわかっているので、人の意見を聞くときにも、「言われてみるとその通りだから、その意見を取り入れて手直ししてみよう」というように、前向きに聞くことができるようになり、これまで難しかったブラッシュアップという過程を授業に組み込むことが可能になります。このことが、何かを伝えようとするときに、伝える相手を意識するということにつながっていくのです。

このことを最もよく示している実践が、本書のメディア創造力を育む授業で紹介している2002年度に行われた「ホンモノパンフレット制作」プロジェクトでした。この授業では、私はクライアントとして子どもたちに接し、子どもたちが作ったパンフレットに何度も何度もダメを出し続けたのですが、最後の最後の段階で、できることならもうちょっと手直ししたいという部分が一箇所出てきました。そのとき私は、「ここまで何度も何度も手直しをしてきたことだし、かわいそうなのでこれくらいは目をつぶろうか」と思い、指摘をしなかったのですが、子どもたちの方から、気に入らないところがあったので直しましたといって、まさにその部分を手直ししたものが届いたのには本当に驚くと同時に、そんなに真剣に取り組んでくれている子どもたちに対し恥ずかしい気持ちになりました。この実践から数年がたち、進学先の中学校の生徒会のメンバーがこの子たちで占められていると聞いたときも、さもありなんと思ったものです。

この実践は2005年度からのユネスコ・世界寺子屋運動リーフレット制作プロジェクトに引き継がれ、今も毎年1,000人を越える児童・生徒が、人に何かを伝える難しさに挑戦し続けています。

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D-projectの公開研究会


プロジェクトで得た成果を広く発表する場が、D-projectの公開研究会です。発足した2002年度の秋には、早くも第一回を開催しています。その後、毎年春休みの時期に全国大会を、夏休みの時期に地方大会を開催しています。特に地方大会は、その地域の先生方に事務局となっていただき、毎回地域の現状に即した独自の内容で開催しています。D-projectの公開研究会の特徴は「もったいないおばけが出る」といわれる内容の濃さです。同時に複数の(多いときには8本!もの)セッションが開催され、参加したいセッションを逃さないように、右へ左へ小走りで移動する先生方がたくさん見受けられます。プレゼンターも、聴衆に逃げられないようにあの手この手で競い合い(奇抜な衣装や食べ物で釣る方も!)、その熱気はどんな研究会にも負けないと自負しています。まだ参加されたことのない方は、是非一度参加してみてください。きっとやみつきになりますよ。
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D-projectワークショップ


プロジェクト、公開研究会とならんでD-projectのもう一つの柱となっているのが、教員向けワークショップです。授業実践者自ら、授業実践で得られた授業デザインのエッセンスを、模擬授業の形式でお伝えしています。参加される先生方は、子どもの立場で実際に授業を受けながら、どこが子どもたちを引き付けるのか、どこが難しいか、どんな力がつくかなどを実感していただきます。また、授業の後は先生の立場に戻っていただき、講師や参加者とともに、授業デザインに関してディスカッションをし、評価をしていただきます。

内容は「パンフレットをつくろう」、「デジタルカメラでスライドショーを作成しよう」「CM研究」「デジタル教材作成」などのメニューの中から、校種や興味に応じて選択していただけます。これまで全国の教育委員会や教育センター、教育研究会などに、多い年は年に数十箇所も講師を派遣して来ましたが、実際に講師を派遣するだけでなく、ワークショップに必要な教材をCDにまとめた「ワークショップキットCD」をお送りして、独自に開催していただくことも行っています。

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D-projectのWebサイト


D-projectのWebサイトでは、これまでのプロジェクトの成果や研究会での発表をアーカイブとして掲載しているだけでなく、授業で用いたワークシートなどの教材を、共有財産として広く公開しています。授業の様子をそのまま映像と解説で見ることができるWeb公開授業や、子どもたち向けにソフトの操作方法を簡潔にまとめた「発想支援マニュアル」など、実践者ならではの視点で作られたコンテンツは、授業デザインの強い味方となります。

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D-projectのコミュニティ


D-projectのメーリングリストには1,000人にも上る教育関係者が登録されています。定期的に発行するメールマガジンや、各種のお知らせに加え、プロジェクトごとのメーリングリストでは、プロジェクトの進め方や、授業デザインなどに関して、活発な議論が行われています。

また、企業とのコラボレーションも盛んで、コクヨS&T株式会社の協賛で行ったユニバーサルデザイン・プロジェクトでは、子どもたちが実際に文房具の開発に取り組み、ペンケースが製品化され発売されました。

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メディア創造力とD-projectのこれから


2006年度から、これまでの成果をまとめ、「メディア創造力」をキーワードにD-project 2が始まりました。ここでは、これまでの活動で深めてきた授業デザイン力を、「豊かな学力」を育むという視点で捉えなおし、ワークショップや公開研究会、Webや書籍といったあらゆる機会を利用して提案していきます。このことが、さまざまな問題を抱え閉塞感の強まっている教育界に新風をもたらし、現場の先生方を支える力となり、日本の教育を21世紀にふさわしいものに変えていく力になることを信じて。
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