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著作権ワンポイントアドバイス
第4回 【学校におけるコピー問題】
前回は、「情報モラルの森」の中核である著作権についてご説明しました。今回は、著作権について、特に学校におけるコピー問題をもう少し詳しくご説明しましょう。

教育目的のコピーは自由?

皆さんは、「教育機関は著作物を自由にコピーして構わない」といった言葉を聞いたことがあるでしょうか。今でこそ少なくなりましたが、私たちACCSが活動を始めた10年以上前から現在に至るまで、先生方からよく聞かされる“主張”であり質問です。前回、著作権はモラルではなく法律であり守らねばならない義務であること、利用するには原則として許諾が必要なことをご説明しましたが、この“主張”に従うと、教育機関に著作権法は及ばないように聞こえます。

実際に、たとえば国語の授業において先生方は小説の一部を「コピー」してテスト問題に利用していますし、図工や美術の授業では、絵画や彫刻の写真をOHPやスライドに「コピー」して映写することもあるでしょう。理科や社会では、絵や写真を事典や本、新聞から「コピー」してプリントにして配布することもあると思います。

これらの「コピー」は正しいことなのでしょうか。そう考えるとすれば、教育機関に著作権法は適用されないのでしょうか。あるいは、私たちACCSの守備範囲であるパソコンソフトやデジタル著作物のみ許諾が必要で、他の印刷物などは無許諾で利用できるのでしょうか。

教育機関でコピーが認められる6つの条件

結論を先に書きましょう。「教育機関は著作権を自由にコピーして構わない」という“主張”は、生徒や学生にたくさんの良質な情報を与えたいと思う気持ちはとてもよく理解できますが、法的には間違いです。著作権法はパソコンソフトやデジタル著作物だけではなく全ての著作物に対して適用されます。ただし、上にあげた授業における「コピー」は、例外として著作権法で認められる場合もあります。著作権法には、公益性の観点などから一定の条件のもとで著作権者の権利を制限し、許諾なく著作物を利用できる規定が設けられており、授業における「コピー」も、その条件に該当します。

では、その条件とは何なのでしょう。具体的に、著作権法第35条に「教育機関における複製」として、次の条件が定められています。

1)営利を目的としない教育機関であること。
2)教育を担任しているものがコピーすること。
3)公表された著作物であること。
4)授業の過程での使用を目的とすること。
5)必要と認められる限度のコピーであること。
6)著作権者の利益を不当に侵害しないコピーであること。

これら6つの条件すべてに該当しないと、著作物を無許諾でコピーすることはできません。ですから、教育機関でも、授業目的ではなく校務や教員同士の教材発表会、PTAの会合のためのコピーなどには許諾が必要です。また、教育委員会がコピーをして学校に配布することも、2)の条件から外れます。合唱部やブラスバンド部は、楽譜をコピーすることはできませんし、いわゆる部活動において顧問の先生は、著作物をコピーするときには許諾が必要です。

さらに重要なことは、授業目的であっても、6)にある著作権者の利益を不当に侵害しないという点です。たとえば、教育用パソコンソフトをパソコンの台数分コピーして使用するのは、授業目的であっても違法になります。問題集や資料集なども、担任の先生が授業目的であってもコピーしてプリントなどにすることはできません。これらは、授業で使われることを想定して販売されている著作物であり、ソフトメーカーや出版社、著者など著作権者の利益を不当に侵害することになります。簡単に言えば、教育現場でしか利用されない著作物を教育現場でコピーすれば、そのメーカーや出版社はコストを回収できなくなり、学校用にそれらの著作物を製作することができなくなります。それは教育現場にとっても困ることになるわけです。必要であれば人数分を購入しなければなりません。

著作権の制限規定

著作権法では、このほかにも許諾なく著作物を利用できる場合が定められていますので紹介しておきましょう。学校の先生方に特に関係すると思われるのは、まず、図書館におけるコピーがあげられます。しかし、この場合でも、調査研究の目的で、著作物の一部分を、一人について一部のみと決められています。図書館でコピーができるからといって、この規定を逸脱することはできません。

次に、論文を書くような場合に必要な引用にも、著作権の制限規定があります。引用の場合は、「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」と定められています。論文であっても、他の人の文章をさも自分の論であるかのように表現しては、引用ではなく盗作です。引用の場合は、引用元と著作者名を明記する必要もあります。

また、入学試験問題にも、著作者への許諾なく著作物を利用できます。ただし、営利目的で試験問題を作成する場合は、著作権者への補償金が必要です。点字にすることは、公表された著作物について認められています。ただし、この場合も、出所元の明記が必要です。冒頭の「教育機関では著作物を自由にコピーしても構わない」ということが間違いであることはお分かりいただけたと思います。法律は、細かく条件を規定していますが、基本的な考え方は、これまでの連載で触れてきたように、創作表現した著作者を思いやり敬意を払うことだと思います。連載第2回の「情報モラルの森」も意識しながら、学校や社会生活の中での著作権について、ぜひ、皆さんご自身もお考えください。
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