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著作権ワンポイントアドバイス
第6回 【個人情報の保護】
前回の連載でご説明したセキュリティ対策の重要性は、学校内にある児童・生徒の個人情報を盗まれないためのものです。一方、学校や先生にとっては、意図して学校や児童・生徒の情報をホームページなどで紹介する場合もあることでしょう。こうしたときの個人情報の保護は、どのように考えておけばいいのでしょうか。

ホームページでの実名の掲載

数年前、ある公立小学校で、学校のホームページに子供たちの写真と実名を掲載したところ、教育委員会から削除命令が出されたという“事件”がありました。この件では当初、教育委員会は、児童の名前をイニシャルに変え、学校名も特定できないような架空のものにすることで解決しようとしたようです。こうした命令の根拠は、この自治体の個人情報保護条例にあり、個人情報を外部に提供したことが問題とされました。

社会の中でインターネットの利用が当たり前になった現在でも、確かに、ホームページで実名を公表するリスクはあります。逆に、誰もが使うようになった現在だからこそ、誰が見ているか分からず、一度掲載した情報は回収できないというインターネットの特性からも、リスクは増しているかも知れません。この観点から見ると、社会の悪質な目から子供たちを守ることを使命の一つとする学校や教育委員会が問題とする理由には、理解できなくもありません。

公表しないことのデメリットも

しかし、一方では公表しないことによるデメリットもあるのではないでしょうか。例えば、ある小学校のサッカーチームが地区の大会で優勝して、その模様を学校のホームページに掲載する際、実名はよくないといって子供たちの名前をイニシャルにしたらどうでしょうか。がんばったことを褒められたい子供たちは落胆するように思います。あるいは、他校の子供たちとの電子メールで、ハンドルネームを使うというのがいいことなのか。先の、削除命令を出された小学校のホームページでも、架空の学校のイニシャルにされた子供たちは悲しい思いをしたように想像します。

また、名前という個人のアイデンティティそのものがプライバシー保護の対象になるのかという議論もあります。子供たちのプライバシーを守る必要は当然ですが、それが行き過ぎて、アイデンティティをないがしろにしたりコミュニケーションを阻害するようなことになるのは本末転倒でしょう。

もちろん、これらの考え方は時代とともに変わる可能性があります。今日、一般的な考え方が5年後も通用するかどうかは分かりません。また、背景となる文化や社会慣習によっても異なるでしょう。例えば、米国では、個人であれ子供の写真や名前をホームページに掲載することはなく、子供の写真をメールで送るなどといったこともしない、との話もあります。それは、誘拐などの事件が頻発する社会状況と関係があります。日本でも、こうしたリスクが増加しているのは事実ですが、実名と写真を掲載することがリスクにつながるかどうか。メリットとデメリットを十分考慮する必要があります。

個人情報は誰のものか

さて、ホームページに子供たちの写真や実名を載せる是非を考える前に、そもそも子供たちの個人情報は誰のものなのか確認しておきましょう。個人情報の背景には、プライバシー権と呼ばれる権利の概念があり、その定義は「自己に関する情報の流れをコントロールする個人の権利」とされています。つまり、子供たちの個人情報は、子供たち個々にあるのです。もちろん、学校において、子供たちの権利は制限される場合がありますが、子供たち個々の権利がなくなるわけではありません。学校での成績など通知表の内容などはすべて子供たち自身が持つ個人情報である、というのが基本です。

従って、先生は、子供たちの成績をまとめたり、個々の情報を整理したとしても、それらの情報は先生のものではなく、単に子供たちの個人情報を預かっているだけだという認識が必要です。そう考えれば、子供たちの個人情報を公表するにあたって、子供たち自身または内容によっては保護者にその意志を確認するべきものと理解できると思います。

子供たちと一緒に考えるプライバシー

子供たちの個人情報は子供たち自身のものであるという前提のもと、ホームページにどのように子供たちの個人情報を掲載したらいいのでしょうか。ホームページを開設する目的にもよりますが、子供たち自身が、「表現」や他者との「コミュニケーション」を学ぶことを目的として作成したホームページであれば、写真や実名をはじめ個人情報の公表について子供たち自身で話し合ってはいかがでしょうか。本当に個人情報を出す必要があるのか、出すならどの程度なのか、他者に何かを伝えるためにはどの程度の情報が必要なのか、代替えできないのか(たとえば本名ではなくあだ名など)など、順を追って話しあってみましょう。この話し合いを通じて、個人情報の公表によるメリットと、もちろんデメリットについて理解することにつながるのではないでしょうか。こうした議論は、ひいては出会い系サイトの危険を考えることにもつながると思います。さらに、自分の写真つまり肖像権についての考え方や実名の重みにまで考えが及べば、それこそが、個人情報保護、プライバシーを考える教育そのものになると思います。

学校が情報提供のため開設しているホームページで、制作過程に生徒がまったく関与していない場合は、ホームページ編集部で「個人情報掲載ガイドライン」を定める必要があります。そして掲載基準の理由や掲載の仕方について、子供たち(または保護者)に公開してほしいと思います。「君たちの個人情報の掲載についてこのような理由でこうしました」と理解を求めることによって、大人と子供の信頼関係が深まるばかりか、個人情報保護の大切さについてもいっそう理解がすすむことと思います。
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