6年生の国語科の単元に「やまなし」という宮沢賢治の童話があります。芸術的結晶である「やまなし」を読み、その表現を味わい、イメージを豊かに広げ、作品の世界に浸ることを意図しています。そして、主題について考えるという物語の読みの基本的技能・能力のいっそうの成長を目指す単元です。
しかし、この「やまなし」は宮沢賢治独特の表現、比喩などが駆使されており、子どもたちにとっても、そして教師にとっても容易に読みこなせるようなものではないのです。作品のもつ柔軟な発想や豊かな想像力を誘う表現が子どもたちの意欲をかき立てる魅力のある作品ではあるのですが、教師1人、そして20名弱の子どもたちだけで考えるのはもったいないと考えました。
以前より、子どもたちが自由に多くの人たちと交流するのに活用していたインターネット上にある電子掲示板があり、その中で三重県の小学校、横浜市の小学校の3校でこの「やまなし」の授業をしようということになりました。
この「やまなし」の授業を電子掲示板により3校で行っていくことで、それぞれの学校の先生方との打ち合わせはとても密に行いました。教師専用の電子掲示板での情報交換はもちろんのこと、電子メール、またテレビ会議でも頻繁に打ち合わせを行いました。このことは、まさに学校の枠を越えたT・Tでした。それを子どもたちが実感したのは、他の学校の先生から発問がやってくる問いのときでした。いつもは担任からの発問しか体験がない子どもたちでしたが、遠く離れた学校の先生から指令みたいに発問が飛んでくるのです。「これって私ら答えていいの?」と戸惑いながらも、他の学校の子どもたちも自分たちと同じように指令を受け、どんどん掲示板に書き込んでいる様子を見て、負けじと書き込んでいました。
「クラムボンって何だろう?」「谷川の深さは?」「イサドとはどんな町をイメージする?」等々、これに対して子どもたちはどんどん自分の考えを書き込んでいく。そして、そこから自分の似た考えの人たちにコメントを書いたり、また全然違う人の意見にもどんどん自分たちの意見をぶつけていくなど、掲示板の中で活発な意見交換が行われました。そのうちに「コンピュータで書くのってうまいこと言えん。面と向かって話したいわ!!」と言い出しました。
さあ、ここでテレビ会議の登場です。書くよりも口で言いたいという子どもたちが、3校あわせて面と向かってお互いの意見をぶつけあうのです。今まではコンピュータの向こう側にいるのだが、顔が見えずはっきりと意見が言えなかった子どもたち。テレビ会議によって今まで名前しか知らなかった人の顔を見ることができ、ああ、この子があの意見をいっていたんだなと相手をしっかりと理解することができました。 |