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Dの現場から
   
アートディレクター:佐藤可士和
世間を賑わすTVコマーシャルや広告の数々。不況が加速する今、経済市場や消費者の生活を活気づける上でも、それらメディアに登場する商品や企業メッセージは、改めてその真価を深く問われている。そんな広告の世界で現在最もパワフルに活動し、その独特の感性と、手掛けたキャンペーン作品のヒットで注目されているのが、アートディレクターの佐藤可士和氏だ。スーパーアイドルグループ「スマップ」の一連のキャンペーン展開、キリンの発泡酒「極生」の商品開発などなど、話題になった広告は数知れず。いつも予想外の表現で、アッと言わせる広告を世に仕掛ける、まさに天才肌のクリエイターだ。はたしてその目には、現在の情報社会や、これからの教育がどのように映っているのだろうか。同氏が主宰するデザイン事務所「サムライ」にて、お話をうかがった。
 
スマップのキャンペーン作品ではさまざまな賞を受賞されたそうで、おめでとうございます。それにしても今年は暑いですね。キリンの発泡酒「極生」も順調に売り上げを伸ばしているんじゃないですか?
 
佐藤可士和(以下、佐藤):はい(笑)。あの商品開発の仕事は、去年の7月くらいに、キリンの商品企画部から広告代理店を通じて、新しい発泡酒を開発して欲しいという依頼があって行ったものです。そこで従来の発泡酒はビールの廉価版というこれまでのイメージを払拭し、“発泡酒”の新しい価値を世の中に提示しようと思って『極生』を開発しました。
 
そんな「極生」や「スマップ」など、佐藤さんの手掛ける広告はいつも話題になりますが、ブランド開発を行う場合、話題になる秘訣というか、とくにどんな点に気をつけているのでしょう。
 
佐藤:そうですね……、たとえば「極生」や「キリンチビレモン」また「スマップ」など、どの仕事でもクライアントのオーダー以前に、それらの商品が世の中に出たときにどういう存在感になるのか。それだけを考えているかもしれません。だから、もの凄く商品のことは考えているんだけど、クライアントの担当者の個人的な事情まではあまり考えていないかも(笑)。 つまり「目的」に対してもの凄く忠実というか……。この発泡酒の場合も、デザインをどうしようかとかいった気持ちよりも、「極生を売ろう!」という意識で仕事に取り組みましたから。
 
いわゆる広告デザイナーとは、かなり意識が異なっているのですね。
 
佐藤:デザインの仕事といっても、たとえばポスターをつくって、それで賞を獲って、というだけではもうつまらないんです。“結果”が出てこないと、満足できない。

多摩美のグラフィックデザイン科を卒業して、デザイナーとして広告代理店の博報堂に入って、それからじぶんの会社を作って、ちょうど今年で12年目くらい。博報堂では1年目からアートディレクションをやることになったのですが、大きなキャンペーンが多くTVCMなどもやっていたので、結果、グラフィックデザイン単体だけじゃなく、広告全体でものを見るという環境が染みついちゃったんでしょうね。

でも入社当初は、やっぱりポスターを作りたいとか、こういう写真でデザインしてみたいとか、作ったポスターでADC賞が獲りたいとか、そんな思いが強かった。
 
たとえばポスターをつくって、それで賞を獲って、というのはもうつまらないんです
 
なるほど。
 
佐藤:でも、賞だけもらおうと思ってポスター作っても、獲れないんですよ(笑)。

で、だんだん勉強して、はじめてホンダのインテグラをやったときに、ポスターで賞を獲ろうとは思わずに、本気で「インテグラを売ろう」と思ってやった。そうしたら、それがすごく話題になった。目立ったし、クルマも売れた。そして、賞も獲れたと。入社後4年目ぐらいのことだったと記憶していますけど、それぐらいから、「あ、こういうことなんだ」と気づいたわけです。いま思えば、当たり前のことなんですけどね。
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