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D-project アーカイブス 中・高では今…
Vol.1 慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部  1 2 3
 
授業を拝見させていただいて気づいたのですが、最近の生徒たちはクチで私語を交わすのではなく、メールでおしゃべりしているのですね(笑)。
田邊:まったく授業と関係のない作業をしていれば、コラッ!ですが(笑)。ただ、耳をきちんと傾けながらやっているのであれば、ある程度は構わないと思います。
 というのも、コンピュータの授業は非常にスキルの高い子もいれば、スキルの低い子もいる。つまりいろんな段階にいる子が同じ教室の中にいるわけです。
 こちらとしては、スキルの高い子にスキルの低い子に向けて話をしているのを我慢して聞きなさいという状況にはしたくないし、逆にスキルの低い子に対して、スキルの高い子に合わせた授業を無理してついてこさせるという状況も避けたいのです。
ところで、このところ大学機関においては、産学協同といった展開も進んでいます。その余波のようなものはお感じですか?
渡辺:大学のようには自由にいきませんが、高大連携といった動きもありますし、学校外とどう繋げていくかといった部分には、コントロールしながら考えていきたいですね。
この『中高は今』シリーズには、特に小学校の先生がたや、子どものお父さまお母さまたちが関心を寄せています。中学・高校を一貫して受け持たれているお立場から、なにかメッセージのようなものはありますか?
渡辺:情報教育も含めて、学校生活そのものを楽しんでほしいと思います。そして六年間を過ごし、気がついたら力がついているといったように、一夜にして力が身につくのではなく、積み重ねていくことの大切さを学んでほしいと思います。
 ですからこの湘南藤沢中等部・高等部は、慶應義塾の大学に進むための、通過点だと思っていただいては困ります。カリキュラム、設備など充分に用意していますし、たとえば帰国生の方たちで、通常の英語の教科書では退屈だといった場合も、ネイティブスピーカーの教員が充実していますので、退屈させません(笑)。そういう意味では、帰国生の英語力は落ちるどころか逆にもっと上がる。
 そういったカリキュラムと、ヒドゥン・カリキュラム〜慶應の伝統や歴史、文化、そして教育の複雑さ、多様さ〜といった教育本来の分厚さを用意しています。教員もみな一所懸命です。
 それと、この学校には校則がありません。
校則がないのですか?!
渡辺:はい、学校のルールがないのです。つまり生徒たちの自己判断、自己責任を重んじているわけです。これは生徒自身、自分で自分を律することを気づかせる、そういった面への期待からです。これもヒドゥン・カリキュラムの一つです。
 
校則がないのが校則であるといった風な隠れた装置を用意することで、自然と生徒が自発的、自覚的になっていくというわけですね。
渡辺:そう、だから先生がたの態度、そういったものにも啓発を受けるような。そういった意味で、先生と生徒のコミュニケーション、話し合いが大切になってきます。たとえば相手と話すときには、きちんと相手の眼を見るとか。そういった心がけとしての眼差しも、日々自然と身についてきます。
 そうしていくことで子どもたちの社会においても、たとえば六年生は一年生などの小さな子にとって、ああいった先輩になりたいといった身近な良いモデルになれるし、反対に六年生にとっては、部活の中やその他ざまざまな場面で良いリーダーシップをとる経験にもなります。
「情報」の授業の中にも、ヒドゥン・カリキュラムという部分での“気づき”の要素が、随分と用意されているようです。
田邊:子どもたちが、自分の思いを伝えるという道具としてコンピュータを使い、自分の気持ちを相手に伝えることができる。それはコミュニケーションの成立ですよね。そのためにはメールという道具を使ってもいいし、コンピュータアートでもいい、ある時はテレビ会議を使ってもいい。
 つまり、どんなときに、どんなコミュニケーションツールを使っていけばいいのかということを、自分で積極的に判断できるようになってほしい。そうなってくれたら、最高です。
情報教育の実践で子どもたちに身につけさせるべき、自分自身で必要な情報を選択するという能力。この能力の向上と、あえて校則を設けず、自己判断させるといった慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部の教育方針は、密接に繋がっているようですね。
渡辺:情報教育とは、これからの国際化、高度情報化社会と向き合っていくための、共生の教育でもあると思っています。そのためには表面だけのカリキュラムではない、ヒドゥン・カリキュラムがますます重要になっていくと思います。
校舎
〈慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部〉 http://www.sfc-js.keio.ac.jp/
慶應義塾の一貫教育の中での新しいタイプの学校として、1992年4月に開校。現在の学制では中等教育課程は前期3年・後期3年に分けられているが、生徒の個性の伸長を継続的かつ発展的に図るために、中学校・高等学校を統合した六年間一貫教育を提唱している。また21世紀に国際的な場で活躍するために不可欠なものとして、語学と情報リテラシーを身につける教育に力を注ぐほか、週2時間の「ゆとりの時間」を設けるなど、変革の時代に対応して、個性を伸ばす新しい教育を目指している。
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