毎年春、子どもたちとの新しい出会いのとき、私は次のふたつの話をすることにしています。
そのひとつめ「図工の時間はね、自分らしさ(感じたこと・思ったこと・考えたこと)を、自分なりに(自分のイメージにぴったりの表し方・材料を使って)色や形で表現して、自分だけの(世界中にたったひとつの)作品を創りあげる時間だよ」。そしてもうひとつの話、「図工はね、“頭考”なんだよ」。子どもたちの反応はまず「えっ?」そしてしばらくすると「ふ〜ん、なるほどね。」「わかった、思いっきり頭考するよ。」こうして、子どもたちと私の図工・頭考がスタートするわけです。
きょうは、みずみずしい感性の持ち主である子どもたちが「パソコンで頭考」した様子をいくつかご紹介しましょう。
平成6年、あるきっかけで、図工科の活動に於けるパソコンの活用方法を考え実践する機会を得ました。「図工は頭考」が持論の私にとって、パソコンの活用方法はすんなり泉のようにアイディアがわき、即実践にむすびつくつもりだったのですが…。いざ、とりかかろうとした時、作家家業を傍らにしている私には、「手で描いて、つくってなんぼの世界じゃないのかなあ?」という思いがハードルとなってしまいました。
そこで、まずは描くというよりも、構成・構想の手助けとしての活用方法を考えることにしました。「マイ・ブックカバー」「マジカル・クロス」という題材を学年の実態に応じて設定しました。どちらも、図形ソフト(HyperCube)を使って、好きなマークをデザインし、コピー機能を用いて並べ方を工夫したり、大きさに変化をつけたり、形を変形させてバリエーションを増やしたりして、ブックカバーや用途に合った布地のデザインを考えました。それまでは同じような題材にのぞむ場合、折り紙で貼ったり、絵の具やカラーペンで塗ったりする活動が主で、肝心の構成を工夫する部分に充てる時間が不足しがちでした。パソコンを使うことで、やり直しが容易にできることからも、子どもたちは生き生きと活動し、ステキな作品が生まれました。
また、木版画「黒と白の虫」で、版木に白黒の配分を考えながら墨を塗っていく活動は、時間と手間に比べ、子どもたちの思い通りにならないことが多かったので、パソコンを活用することで時間が短縮され、その分「彫り」に充てる時間が保証され、作品の完成度も子どもたちの充実感も高まったようでした。
いくつかの実践を経る中で、私はひとつの大切なことに気づきました。それはパソコンに向かっているときの子どもたちの瞳の輝きです。
子どもたちにとっては、筆やパスで描いたり、はさみやのりでつくったりすることと、パソコンを使って造形表現することは何の違いもなく、むしろパソコンに向かっている時の姿は、他のどんな活動よりも意欲的だということに気づいたのです。 子どもたちにとって、「マウスは筆」だったのです。まさに「目から鱗」、私にとって「パソコンで頭考」の転機でした。
ちょうどその頃、タイムリーにも「コンピューター芸術展(現在は“eATジュニア”と改称)」というパソコンによる描画のコンクールがあり、これを目標に制作することにしました。
子どもたちの発想の柔軟さには以前から感心していましたが、パソコンの多様な機能を慣れた手つきで使いこなし、アレンジし活用する姿には、もはや脱帽でした。こんな子どもたちですから、このコンクールでも上位入賞を果たすことができました。 順風満帆に「パソコンで頭考」する日が続いたある日のことです。子どもたちが作品を家へ持ち帰るためにプリントアウトすると、きまって「あれえ、なんかイメージが違う」との声。
液晶画面の色とプリントアウトされたインクの色の違いです。「光」の色と「顔料」の色がちがうのは当たり前と言ってしまえばそれまでなのですが、説明しながら私自身も釈然としませんでした。
そこで考えたついのは、TPシートにプリントアウトする方法でした。題材名は「かくれんぼしてるの、だあれ?」。まず、キッドピクスというソフトで、ミキサーという機能を使い、偶然にできる色と形の平面構成をTPシートにプリントアウトします。これが「ふしぎなもようシート」です。次に、不思議な模様の中にかくれんぼする文字や絵を考え、2枚目のTPシートにプリントアウトします。「かくれんぼシート」です。この2枚のシートを重ねOHPでスクリーンに映し出し、みんなで隠されている文字や絵を当てっこし鑑賞しあいました。題材を考えついたきっかけは、「液晶表示に近い色」でしたがうれしい誤算が生まれました。OHPで拡大された画面を鑑賞しあうことで、パソコンの小さな画面ではできなかった、全員が一斉に一人の作品を鑑賞することができたのです。
相変わらずどたばたと、子どもたちに教えられながら日々を送っている私ですが、これからも、子どもたちの輝く瞳と感性に負けないような「パソコンで頭考」を工夫し励んでいきたいと思っています。 |