ここ1、2年のうちに、学校教育におけるインターネット環境がめざましく発展をとげてきた。
ミレニアムプロジェクトを受けた地方自治体の予算措置やさまざまな研修等を行うことにより、学校の情報化がよりいっそう進んできたことは言うまでもないが、2002年4月から本格実施された総合的な学習ではインターネットのさまざまな活用が試行されている。
○交流:3つのパターン
「インターネットを活用した学校間交流」とひとくくりにしてみたが、実は大きくわけて3つのパターンがある。
パターン1:目的型
同じ川の上流校と下流校で同一河川について調べたり、ケナフのことについて情報交流をしたり、という事例を読まれたことがあるかもしれない。このようなインターネットによる共同学習は、この「目的型」に入る。まずは、きちんとテーマありき、なのだ。テーマだけでなく、授業の流れや同時期に栽培するなど、活動の骨子がより明確であることがおおまかな特徴としてあげられる。
パターン2:広場型
こちらはうって変わってインターネットで交流する場が用意されている、というパターンだ。特にWeb上やコミュニケーションツールの掲示板で顕著だ。もちろん、場合によっては目的型のように交流が行われることがあるにしても、交流そのものを大事にする、という意味合いが強い。昔のパソコン通信のようにあらゆる部屋(電子会議室、掲示板)が用意されている。どこでどんな交流の節目が出てくるかわからないが、子どもたちの興味やこだわりに個々に対応できるという点ではすばらしい。
パターン3:ツーショット型
目的をきちんと決めることも実際のクラスの子どもの実態からはちょっと…しかし、相手の顔がわかるような交流をしたい、という時には、このツーショット型がおすすめだ。特定の学校(あるいはクラス)と年間を通してインターネット等で交流を続ける、というパターンだ。もちろんインターネットだけでなく、ビデオレターや郵便を送りあったり、実際に会ったりする場合もある。そんな中で、授業の流れにそって目的型のような交流学習を節目でやっていこうという取り組みだ。いずれの場合にも一長一短があるし、これらのようにきっちりと区別できないものもあるかもしれない。しかし、インターネットでの学びをどのように実現しようとしているのかを吟味した上で、参加形態やプロジェクトを考えるべきだろう。そろそろ学校が選べるだけの場は増えつつあると思うのだが。
○学校間交流を行うときの教師の留意すべき10のポイント
さて、情報交流場面において、特にインターネット上の掲示板等に参加して学校間交流を行う学校の教師がどんなことを念頭に入れて実践していけばよいのだろうか?
1)時間と場所の保証
学校での掲示板への書き込み、読み込みの活動は限られた授業時間に行われる。しかし、学校間交流に積極的な学校の様子を見ていると、それだけでは十分な時間が確保できないために、教師がさまざまな時間の工面をしていることがよくわかる。たとえば、「日常的なかかわりを大切にしている」ということだ。イベントをするときだけ、テレビ会議をするときだけの交流では、どうしても教師がひっぱっていく形になってしまうことが多い。いつやっても良いという雰囲気を教師が醸し出し、何かあれば対応することが大事である。そして、必要があれば、書き込みについて話し合いの場をもつというような「節目においての振り返りの場」は、それ以降の活動に意味づけを行うことになる。
2)モチベーションの持続
参加した当初は楽しくて仕方のない掲示板での交流だろうが、しばらくすると良くも悪くも慣れてくる。そのような意味では「やり始めが肝心」であるといえる。交流を始めた頃は、子どもたちは好奇心で関わっていることが多い。しかし、ほおっておくと、1通発信して終わりということがよくある。教師が、メールをプリントアウトしてきて話題作りをするとか、メールを書く時間を保障してやるとか、メールを書く相談にのるとかなど、積極的に支援していきたいものだ。例えば、「朝の会、帰りの会で話題に」して、学級でとりあげるなど、次の活動への「種まき」をすることも重要だ。
3)学習環境の整備
そもそも、インターネット上の掲示板の交流では、コンピュータは1台でも多いほうが良いし、活動する子どもたちに身近であればそれにこしたことはない。それが少しでも実現できる環境整備も重要な要素だ。物理的に台数が変わらないのなら、例えば、コンピュータルームの随時開放を行うことなどの方法で子どもたちにとって身近にすることも大事である。また、中心的に参加する学級に数台のコンピュータを持ち込み、やりたいときにすぐにできる環境を実現している学校もある。いずれにしても、このような環境を実現することで子どもたちの積極的な活動を認知してもらい、次の環境整備にステップアップする、というような工夫と努力が必要になるだろう。
4)交流の目的の明確化
たとえ環境というテーマのキーワードが同じでも、そのテーマに対する教師の思い、方向性が違ったり、やり方がうまくかみあわなかったりすることがある。だから、みつかったからといって、無理をする前に、お互いに交流がかみあうのかどうか十分に話し合うことが大切だ。早い話が、テーマが同じだけでは長続きしない、ということが4つ目の指摘だ。また、テーマを設定することなく、交流すること自体に意味を見い出すこともあるだろうが、この場合は、放任にならないように気をつけ、「継続する力や問題が起こった時に自分たちで解決する力をつけていく」などの目的を、教師はしっかりと持つべきだ。
5)相手を意識させる場作り
言うまでもなく、コンピュータに向かって文字を打ち込んではいるが、実はコンピュータの向こう側には人がいる。子どもたちは、観念的にはこのことを理解しているだろうが、なかなか相手の立場になって考えるところまでいかない。メールを出してそのままほおっておいたり、相手が答えてほしいと思っていることに答えなかったりなどという状況に陥ることがある。最初に自己紹介から始めて、それを教室に掲示しておくとか、参加校の中で、今問題になっていることについて教室で話し合いをもつなどの工夫をすることも重要だ。また、教室の中で送られてきたメールについての行間の話し合いをもったり、先生同士の打ち合わせ(これもメール上でもできる)で子どもたちが送ったメールの行間の補足を行なったりすることなども、子どもたちに相手を意識させるのに役立つ。
6)掲示板以外のコミュニケーション手段との融合
ネットワーク上だけの交流では、交流が継続しないし、相手の顔がなかなか見えてこないこともある。ビデオレターや実物の交換、必要に応じてのイベントやテレビ会議の設定などを同時進行させることが時には有効だ。水について環境学習で扱うときも、お互いの地域の水道水を送りあい、いかに美味しさが違うかを実感したことがその後の子どもたちの追究のきっかけになる、などということが起こりうる。
7)モラル指導の徹底
メールの交換には、そのネットワークを構成している学校同士でルールが必要になってくる。例えば、メールを書いたら必ず最後に「学校名・学年・名前」を書いて自分の書いたことに責任をもたせるようにしたり、誰のメールに返事を書いているのか分かるようにしたり、ということなど、状況に応じて掲示板でそのことについて話題にする必要があるだろう。また、交流していくうちに、そういったルールを破ったり、時には人のいやがるようなメールや他人になりすましたメールを出したりする子が出てくることがある。そういう場合は、しっかりと教室で話し合いをもったり、その子に指導したりして、「してはいけなことだ」ということを実感としてもたせることも重要だ。
8)教師間の密なやり取り
インターネット上で交流をするのは子どもたち同士かもしれないが、その裏で教師が密なやりとりをしないとなかなかうまくいかない。これは先の「広場型」でも同じことだ。メールの交換やテレビ会議ではどうしても伝わりきらない部分が出てくるだろう。それをどのように教師が補うのか、ふりかえる場を作るのか、次の交流をどのように進めるのか、十分に双方の教師がマメに打ち合わせをする必要があるだろう。
9)ギブアンドテイク
交流がうまくいくためには、どちらかの学校には交流することがプラスになるけど、もう一方の学校にはなんらプラスにならない、ということではうまくいかない。このことは地域の方に協力していただく場合も同じだが、与えてもらうことだけを期待していると長続きはしない。双方にプラスになるよう、考える必要があるだろう。
10)教師もメール交換を楽しむ
最後になったが、ネットワークの交流を始めると大変と思わず、教師自身が世界が広がることを楽しむことが何より重要なのは言うまでもない。 |