高校生の英語によるリサーチプレゼンテーションコンテストでの出来事です。プレゼンテーションの方法は、ただ言葉で説明するだけでなく、ドラマ仕立てや一人で何役もこなすパフォーマンスなど工夫をこらしたものが多くありました。プレゼンテーションツールを活用したものが主流ですが、コンピュータと写真や映像、音楽などとの組み合わせたものもありました。中でもコンピュータを駆使し、聴衆に息もつかせぬ間合いで、たたみかけるようにみごとな発表をしたグループもありました。練習を積んだ跡がいたるところに垣間見られ、指導した先生も満足そうでした。ところが、結果は入賞すらできませんでした。「なぜ、どうして私たちがダメなの」そんな不満そうな顔をしていた生徒たちへ私は、審査員の的確な判断を喜びました。そして、魅力あるプレゼンテーションとは何かを考えさせられる機会となったのです。
本来プレゼンテーションは、伝えたい内容や訴えたいことが、まっすぐにでることを考えなければなりません。しかし、コンテストとなると、ついつい指導に熱が入り、指導者自身の色が出すぎてしまうことがあります。その結果、素晴らしい発表でも、なぜか心に伝わってこないものとなってしまいます。コンピュータを見事に使いこなす技術ではなく、発表者の個性で言いたいことを伝えることができるプレゼンテーションこそが魅力あるものなのです。生徒の個性を見抜き、それをどのように表現させるか、指導するときに忘れてはならないことだと思います。
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では、個性を探すにはどのようなことから始めればいいのでしょうか。私が行う授業の出だしを紹介します。最初に「自己紹介をやってみよう」と始まります。「○○です、よろしくお願いします」と名前だけを告げた簡単な挨拶が続き、数名のところで止めて、「名前だけで自分のことをわかってもらえるだろうか」「自己紹介って何だろう、何を話せばいいのだろう」と投げかけてみます。そして、グループに分かれてブレインストーミングを行い、お互いの考えをどんどん出し合っていきます。グループの代表者が意見をまとめ、みんなの前で発表し、その結果「これから仲間として一緒に活動するために、他人に自分のことをわかってもらうこと」「自分の特技や長所、いま興味を持っていることなどを話すとよい」などの意見が出てきました。そこで、改めて自己紹介をさせると、先ほどとは違い、自分のことを知ってもらおうと考えながら話すようになっているのです。聞いている人も、どんなことを話すのだろうかと興味がわき、いろいろなことが聞けて楽しくなっていきます。人に話をしたい、人の話を聞きたい、ここから互いのことをもっと知りたくなり、質問や疑問が生まれ、コミュニケーションが始まります。授業後の感想は「いままで自己紹介について考えたことはなかった。初めて会う人への第一印象を大切にしたい」というものが多くありました。いままで自己紹介の場面はたくさんあったはずなのに、自分自身をプレゼンテーションする機会として捉えられなかったのです。自分を知ってもらいたい、何かを伝えたい、人の心に訴えたい、この素朴な欲求がプレゼンテーションの始まりとなるのです。
自分を知ることは、個性的なプレゼンテーションを行うために欠かせない要素となります。生徒の自己紹介をビデオカメラで撮っておき、さらに授業は続きます。各々自分の自己紹介のビデオを見て、「え、これが私。もっとしっかり話せていたと思ったのに、声も小さいし元気がないな」など映像の中の自分の姿に戸惑いを隠せない生徒たちは、他の人からはこんな風に見えていたのだということにきづきます。客観的に自分を見ることは、自分を知る上で大切なことです。また、時には、英語による自己紹介をさせるのもよいでしょう。日本語では恥ずかしくて言えないことが、英語だと、なぜか言葉となって出てきます。難しい単語を知らないので、知っている簡単な単語を探し、とにかく話そうと努力します。日本語以外の言葉で話すため、ふだん使っていなかったところの脳が急に活性化されます。そこに、新たな見方や視点が生まれ自分を見つめ直すことができるのです。さて、この先あなたはどのような授業を続けますか? |