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授業報告【第2回】
パンフレット研究をする

授業のねらい

このホンモノパンフレット,一般によく見られるような機能をただ解説するだけのパンフレットにはしたくありませんでした。それでは大人のパンフレット作りを真似して終わり!となってしまいます。今回アドビが子ども達に求めたのは,大人にはない作風のパンフレットです。しかもパンフレットターゲットは,学校の先生です。そこで,まずは子ども達自身がPhotoshop Elementsで,パンフレットに掲載するサンプルを作ることにしました。サンプルのテーマは「コミュニケーション作品」。コミュニケーション作品とは,ポスターや招待状,新聞など人に自分の気持ちや考えを伝えるための印刷物を指します。これをPhotoshop Elementsで作るわけです。Photoshop Elementsは,もともとフォトレタッチ(※1)を目的としたソフトウェアです。しかし文字入力や描画などの自由度もかなり高いので,DTPソフトウェア(※2)的な使い方としても活用することができます。

パンフレットサンプルのテーマをコミュニケーション作品にするアイデアは,最初にアドビの北川氏から聞いた「Photoshop Elementsの商品コンセプトは,コミュニケーションツール」という話を受けてのものです。最近は,児童のコミュニケーション能力を育てる研究に取り組んでいる学校が増えています。このサンプルがうまくできれば,ターゲットである学校の先生の購入意欲を誘うことができると考えました。つまり「Photoshop Elementsを使うと,自分の気持ちを人にうまく伝えられる作品が小学生でも作れるよ!」と学校の先生に訴求する作戦です。もちろんそのサンプルが悪ければ,パンフレットも台無しになります。その意味ではどういうサンプルに仕上がるかが,このプロジェクトの最初の山場になりました。

授業の様子
サンプル作りにあたり,まっさきに壁にぶちあたったのは,そこで使用する画像素材でした。お絵かきソフトで一から作品を作るのと違って,Photoshop Elementsのようなフォトレタッチソフトで作品作りをする場合は,そこで使用する画像素材のクオリティに仕上がりが左右されます。このサンプルは,最終的にアドビの販売促進用(以下,販促用)パンフレットに掲載することを前提で作ります。となると子ども達に使わせる画像素材は,販促用使用に堪えるものでなければいけません。インターネット上でフリー画像素材(※3)を公開しているホームページを探し回っても,手に入るものといえば,70dpi(※4)程度の低解像度の画像ばかりです。これでは,300dpi以上の高解像度が求められる販促用パンフレットにはとても使用できません。そこでこの件について,アドビの北川氏に相談しました。すると,北川氏はすぐに,D-Projectの協賛企業であるデザインエクスチェンジ社(以下DEX社)に対して,画像素材提供の依頼をしてくださいました。

 
さまざまな画像素材を用意  
そして3日後,本校に大きな段ボール箱が届きました。中身はDEX社が販売している「フォト満タン」シリーズ計4本でした。これは「環境」「子ども」などテーマごとに,高画質・高解像度の画像を集めた素材集です。どの画像もとても美しく,これを見た子ども達も大喜びで,一気にサンプル作りの意欲が高まりました。さらに学習研究社(以下,学研)にも,画像素材提供にご協力いただけることになりました。(学研もD-Projectの協賛企業です)学研の月刊誌「NEW教育とコンピュータ」に付録としてついているCD-ROMの中に,画像やイラスト素材が入っています。この画像素材も,かなりクオリティが高いものばかりです。本校には,この雑誌の4年前からのバックナンバーがすべてそろっているので,全部あわせると相当の数の画像がそろいます。この中から,子ども達が必要とする画像の販促目的利用を許可していただきました。これらすべての画像素材CD-ROMは教室に置いておいて,子ども達がいつでも見ることが出来るようにしておきました。
 
さて画像素材もそろって,いよいよPhotoshop Elementsパンフレットのサンプル作りです。サンプル作りにあたり北川氏は「子どもたちの感性で,面白いものを作ってください。」と,あえて細かい指示は出されませんでした。
まずはじめに,どんなサンプルを作るか教室で話し合いました。「人に自分の気持ちや考えを伝える作品って,何があるかな?」と山田教諭。「新聞!」「手紙!」「ポスター!」「招待状」と,子ども達からいろんな意見が出ました。さらにポスターでは,行事ポスター,委員会ポスター,安全ポスターが作れるという風に細かく整理していきました。この話し合いのあと,それぞれ作りたい作品ごとに新しく作ったグループに集まり,ラフスケッチに入っていきました。

高度な処理もPhotoshop Elementsなら可能
技術面ではサンプル作りにあたって,コラージュという手法を指導しました。これはたくさんの画像を貼り合わせて,1枚の作品を作るものでポスター作りによく用いられます。Photoshop Elementsはレイヤー(※5)機能が強力なので,このコラージュが簡単にできます。また新聞などじっくり読むタイプのものは,一瞬で引き付ける必要がないのでキャッチコピーはいらないこと,画像や色も伝えたいことがしっかり伝わるような工夫をすることなどを指導しました。
では,子ども達が作ったサンプル作品を紹介します。
(下のサンプル作品をクリックすると,解説ページが開きます)
 
安全ポスター
行事ポスター
学年発表会招待状
委員会ポスター
児童会ニュース
         
環境ポスター
米新聞
自己紹介パンフ
年賀状
学校紹介パンフ
 
 
満足感いっぱいの子ども達  
ラフスケッチ後,コンピュータ作業に入ってから早いグループで2時間,おそいグループで4時間ほどで仕上がりました。このサンプル作品はすべて印刷して,模造紙にはりました。それを教室に掲示して,相互評価しました。「キャッチコピーがいい」「背景の色が文字のじゃまをしている」「字が少ない」などの意見が出ました。それをもとに,後日さらに修正しました。このようにして完成したサンプル作品を北川氏と中川先生に送ったところ,「よくできてるねぇ〜」とおほめの言葉をいただきました。教師二人もひとまず安心。でもここで少しばかり欲が出てきました。サンプル作品のうちポスターは,A4印刷ではなくやはりA0(841mm×1189mm)の大判印刷でないとポスターの雰囲気が出ません。でも大判プリンターは高価なので,学校にはありませんでした。そこであつかましいのを承知の上で,ポスター作品をなんとか大判印刷する方法がないか北川氏と中川先生に相談してみました。それを受けてお二人にいろいろ手を回していただき,結局ヒューレットパッカード社の御協力でポスター4枚の大判印刷が実現しました。本物のポスターのように大きく印刷された自分達の作品を見て,子ども達も大満足。このような所にも産学協同のメリットを感じました。完成したサンプル作品は,ホンモノパンフレット作りに生かしただけでなく,学校の廊下にも掲示して全校の子ども達に見てもらいました。
この後,できあがったサンプルを使ってPhotoshop Elementsのパンフレットを作る活動へと進んでいきます。
 
(※1) フォトレタッチ・・・デジタルカメラやスキャナーで取り込んだ画像を加工・修正すること。
(※2) DTPソフトウェア・・・DTPとはDesk Top Publishingの略。新聞や雑誌などの印刷物の原稿を,作成・出力するためのソフトウェアのこと。出版・印刷業界で広く利用されている。
(※3) フリー画像素材・・・ホームページ作成などの目的で,個人が自由に利用できるように提供している画像素材のこと。ただし無断での再配布・転載・商用利用を禁じているケースが多い。
(※4) dpi・・・dots per inchの略で,画像のきめの細かさを表す解像度の単位。
(※5)  レイヤー・・・画像を重ねて合成するための階層を管理する機能。または重ねられた1枚1枚の画像のことを呼ぶこともある。
 
担任のつぶやき
担任: 「人に自分の気持ちや考えを伝える作品って,何があるかな?班で話し合ってみよう。」
子ども: 「ポスター,手紙,招待状,パンフレット,新聞,はがき,自己紹介カード,学校紹介カード。」
(なかなか,よく考えているなあ。すごい,すごい・・・)
子ども: 「歌!」
子ども: 「詩!」
(・・・・?・・・確かに,気持ちや考えを伝えるけど・・・)
担任: 「ちょ,ちょっと待ってや!よ〜く考えてや。今は,みんな,パンフレットに載せる作品を考えてるんやなぁ。見るのは,学校の先生やったね。それから,フォトショップエレメンツの良さを出す作品でないとあかんのやったね。」
子ども: 「そうか!歌はちょっとあかんわ。」
子ども: 「詩も合わへんわ。」
(・・・ほっ・・・・)
さまざまな考えが出れば出るほど,子ども達の興味があちらこちらにいってしまいます。すると,話し合いの焦点がぼやけることもしばしばです。度々何のためにサンプルを作ろうとしているのか,というところへ子ども達の意識をもっていかなければなりませんでした。ポスター一つを決めるときも,子ども達は,自分の入っている委員会のポスターを作りたいと,深く考えずに言います。そこで,パンフレットを見る相手が全国の学校の先生であることを思い起こさせ,できるだけどの学校にもありそうな委員会のポスターがいいと子ども達が考えるよう,声をかけていきました。

これらの話し合いの後,1グループ3〜4人の10のグループに分かれて作っていくことになりました。そして,グループ内では,画像係,文章・レイアウト係,コンピュータ係という3つの役割を各自分担しました。この時は,子ども達が自分の作りたいサンプルを選び自由にグループを編成したので,自然に仲のよい子ども同士が,一緒のグループになっていました。
ところが,1グループが3人という小さなグループのため,3人ともコンピュータ操作が苦手であったり,ここまでの学習で中心となって活動していない子同士であったりするケースが出てきました。この子ども達は,サンプルを仕上げるために大変苦労をすることになります。けれども,ここで自分たちの力でやっていかなければならない状況に追いつめられたことが,とてもいい経験になりました。

このサンプル作りの後,山本先生の言われた言葉が心に残っています。
「やっぱり,ラフスケッチがきちんとかけていた班は,仕上がりが早かったね。でも,それがしっかりとできないままコンピュータ操作に入った班は,すごく時間がかかったね。」
自分なりのイメージをもって活動に入る大切さを,担任も痛感しました。
 
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