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シリーズ1 今、なぜプレゼンテーション能力なのか?  1 2 3 4
 
脳が汗をかく訓練は新世紀の必修科目
村岡:ソフトを提供する側から言えば、先生にも子どもにも使えるという観点で作ると、結果的にどちらにも合ってないものになってしまうことがあるんです。
 例えば「一太郎スマイル」というソフトのワープロ機能は、実は子どもたちにはそれほど需要がありません。では、なぜ企画したかと言えば、このソフトの開発当時、先生方がほとんどパソコンを使っていなかったんですよ。掃除の時間以外、コンピュータ・ルームの鍵が開かないという学校がいくらでもありました。
 とはいえ、我々が「使え、使え」と叫んでも、効果はありません。そこでまず先生に使ってもらおうと、「一太郎スマイル」には先生が使ったら便利な機能をたくさん盛り込みました。先生の公務処理用に便利なものがたくさんあれば、日常的に使用していただけると思ったからです。
 逆に「はっぴょう名人」では、先生方の使い勝手は一切考慮しなかったんです。だから子どもたちに使われているのかもしれませんが。

佐藤:「先生はパソコンを使えないといけない」ということは決してないと思います。コンピュータだって、子どもたちの方が簡単に覚えて使い込んでいくし。

中川:ええ、私も先日、石川県の学校で情報教育の発表をしたのですが、コーディネーターの先生は非常に情報教育に堪能なんですが、他の先生は「果たしてどうかな?」と一抹の不安がありました(笑)。その学校では一年生の担任の先生が、家族紹介にデジカメを使ったところ、子どもの一人が「デジカメ貸して。僕も撮ってくるから」と言ったそうです。
 また、その学校では四年生が「はっぴょう名人」をいろいろおもしろいことに使っていたけれど、先生は全然使えない。先生は何をしているかというと、周辺のことをサポートしているだけで、中身は分からないんだそうです。「分からなくても両者がうまく共存していけば、いいツールになるんだな」と思いながら見させてもらいました。
村岡明氏 「若い人は自分の思いを伝える経験が不足している」「マニュアルを見ずに使えるソフトが理想」
村岡明氏
村岡:一般的に言うと「先生はなんでもできなくてはいけない」という誤った伝説みたいなものが横行していますけれども、その考えにとらわれてしまうのはよくないと思いますね。
 僕はよく「小学校の先生がみんなピアノを弾けるわけじゃないでしょう」と言うんですが、全員がピアノの達人なんてありえません。苦手な人もいるわけだし、それならできる人に任せたらいいと。もっと極端に言えばピアノが弾ける子どもに弾かせてもいいんじゃないかと思います。パソコンもそれと同じで、上手な子がいたらどんどん任せ、先生はクラスをトータルで見渡して、どの子が育っているということを把握していればいいんじゃないでしょうか。

中川:今のピアノの話で思い出したのですが、僕が小学校の教員時代、一年生を担任したときに、ピアノが苦手で泣きながら弾いてたら、僕が間違えたり指がひっかかっても子どもたちはそのまま何事もなかったように歌っていました(笑)。
 「先生はあまりパソコンが使えないんだ」というスタンスを子どもたちが分かっていれば、子どもたち自身が率先してやるでしょうね。

村岡:なぜ今、プレゼンテーション能力の育成に注目が集まっているかというと、社会が必要としているからだと思います。産業構造が変化し、これからは知恵をしぼる仕事が主流になってくるからです。そのときに自分が何を考えているかはもちろん重要ですが、表現することはもっと大切です。つまり、考えついてもそれを他者に伝えられなかったら考えていないのと同じなんですよ。「思っていたけど言いませんでした」では、日本の将来はないも同然です。

佐藤:その言葉は、私が子どもたちに言っていることと同じですね。

村岡:プレゼンテーションを行うという経験によって、脳みそは大量の汗をかきます。私を含め、今の大人たちはそうした経験に乏しいので、二十一世紀の子どもたちはぜひそうした訓練を重ねてほしいですね。
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