デジタル表現研究会
D-projectとは? D-allメーリングリスト サイト検索 ホーム
D-project
D-projectのあゆみ
メディア創造力を育成する実践事例
ワークショップ
ユネスコプロジェクト
教材作成
調査研究
カリキュラム検討
ネットdeカルタ
卒業アルバム作成
先生の道具箱
全国に広がるD-project
D-project アーカイブス 情報教育座談会
シリーズ3 コミュニケーションのルールを知り、自分たちの気持ちを出し合える学校に
1 2 3 4
 
本物と関わる緊迫感を上手に演出する
中川:外部の人を多く招くことによって、子どもたちに何か変化が現れてきましたか?

山本:物作りをテクニックも含めて教えてもらうのですが、その際、子どもたちはどんどんインタビューするし、説明も受けます。外部の人に接し、その人の話に耳を傾けることができるというわけです。以前は質問がなかなかできなかった子どもが、疑問を抱いたら積極的に質問するなどの変化がありました。

中川:国際理解を推進している金沢市のある小学校では、ALTを入れて、ゲームなどに取り組んでいます。何年か経て最も子どもが変わったところは自然に「ハーイ!」とアメリカ風に(笑)挨拶できるようになったことで、英語を覚えるためではなく、人間同士の関わり方を学んでいたと聞きました。他者とふれあう場面を生活のなかに意図的に仕込んでいくと、長期的な視野で見れば、コミュニケーション能力が培われていくように感じました。北川さんは保護者のひとりとして、子どものコミュニケーション能力を養うための授業の事例や要望はありますか。

何かを認められて自分の居場所を学校のなかに作ることが大事である

北川:
私は外部の人間として学校をよく訪問しますが、子どもたちは他人とふれあうことで刺激を受けますし、慣れた者同士の教室で「あ・うん」の呼吸で伝えられない相手と話をすることは、有意義だと思います。ある意味、「話す・聞く」ことで失敗する経験をしてもいいのではないでしょうか。いくつか失敗を経験した後に、相手に自分の話がうまく伝わったら、喜びもひとしおだと思います。そのためにも、外部の人間を学校に招くという取り組みは、積極的にやっていただきたい。子ども自身も知恵を身に付けるには自分の考えを誰かに話してみることが最も有益です。ちょっと聞きかじったことでも人に話して議論すると、さまざまな考え方を知り、知恵がプラスされ、その積み重ねが次回に話すときに応用されていく。コミュニケーションがうまい人は何かしらの技を持っているように感じます。学校ではそういう授業はないんですか。

中川:これは難しいですね(笑)。「本物と関わる緊迫感、異質なものを受け入れる」ことがキーワードになってきた気がします。コミュニケーションの成就感を得るための、失敗の経験を、どの程度のさじ加減で、どうやるかが問題ですね。

江守:確かに失敗を組み込むことは難しいですね。コミュニケーションの場面はつくれても、子どもにとっての失敗か成功かは自分では分からないわけですから。
 
失敗は恐れずに、ただし受け皿はしっかりと
山本:もちろん多くの失敗から学ぶことは大切なので経験させたいんですが、教師や保護者が失敗してもいいと言っても友だちが受け入れてくれなければ防衛本能が出て自分を出せなくなってしまうので、受け皿のしっかりとしたシステムができていないと怖いですね。

江守:失敗するかどうか分からないけれども、一生懸命やってきた過程はちゃんとあるわけです。他人からみたら失敗かもしれませんが、スタート時点で発言できなかった子どもたちが自分なりに積極的に話せるようになったとすれば、教師側から見れば成功だと位置付けてもよいのではないでしょうか。

江守恒明氏 日本の高校生は自分の考えを持っているのにきちんと話せない
江守恒明氏  

中川:一方では情報社会になり、ネットワーク上でのコミュニケーション能力を育てていくことも課題と思いますが。

山本:ネットワークを使ったコミュニケーション能力の育成は重要ですが、少々特殊です。一対一で通信しているからと言って、ネット上でリアルな交流をしているとは限りません。よほど工夫しないとコミュニケートの実感を持たせるのが難しい。そこで必要な実践が2点あり、1つはテレビ会議による顔が見える交流。特に離れている学校との交流は有効です。次に電子掲示板による交流も必要だと思います。

中川:電子掲示板におけるコミュニケーションのメリットとは?

山本:書く活動に限定されてしまいますが、離れているという前提があれば大変有効ですね。昨年、伊豆の海が身近にある学校と電子掲示板で環境問題について情報交換を行いました。本校の近くには海がなく、子どもたちは海の汚染など実感を持ちにくかったのですが、情報交換を通して環境学習ができました。

中川:電子掲示板などさまざまなシチュエーションのなかで、ネットワーク・コミュニケーションの力を付けていくということですね。私は全国各校のテレビ会議の実践を見てきましたが、受け答えが難しくて、一方的な発表か感想で終わってしまうことが多かったように感じます。テレビ会議はコミュニケートするまでが難しいんですね。

山本:共通の目的意識を子どもに持たせるようにしないといけませんね。イベント的な学習活動だけではコミュニケーション能力は身に付きません。以前、ネット上の環境学習活動を通し、環境保全をテーマに歌を作ろうと提案しました。一緒に歌を作るという目的が生まれ、電子掲示板で「こんな歌詞やメロディができたよ」と情報交換する必然性が出てくれば、うまくコミュニケーションも進んでいきます。

中川:歌を作るという共同作業がポイントですね。結果はどうでした?

山本:子どもたちは歌の出来上がりに大変満足していました。歌作りをネットを通して行うことで子どもの心情や思いまで共有することができました。ネット活用ならではの実践でした。

江守:実は私、ネットワーク・コミュニケーションについては、否定的な立場なんです。3年前、読書会のメーリングリストを作って、自由に感想を書き込ませました。すると、多くの意見や感想を書き込んでくるのですが、実際に会って、読書会で取り上げた本について意見を聞くと誰も話そうとしない。「いい意見を書いていますね」と話題をふっても口頭では話さない。実に不思議でした。それはメーリングリストという媒介を通して、コミュニケーションができれば済んでしまうからなんですね。「変なコミュニケーションだな」という印象を持ちました。
back バックナンバーへ  next
D-project アーカイブス 情報教育座談会