ブーイング!
夏休み明けの9月1日「3日後に夏休みの思い出ベスト1を、全員に1分間スピーチしてもらいます」と宣言しました。すると案の定、クラス中が「え〜何それ〜」「やだー」の大合唱。それでも私は「お話に合わせて写真を用意するとか、動作して見せるとか、伝わりやすくするために何か工夫してね」と忘れずつけ加え、ものすごいブーイングを尻目に教室を去ったのでした。情報教育ビギナー教師である私の胸の中にはある思いがあったのです。
あくびも止まる1分間スピーチ
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3日後、約束の1分間スピーチの開始。みんな緊張の面持ちです。クラス1、いえ学年1のやんちゃ坊主のK君は、人のスピーチを聞きながらも何やら難しい顔をして自分用の原稿を今ごろになって書いています。あえて給食後の5限めに設定。いつもはあくびの嵐でも、その日のみんなは違いました。家からネコの等身大のぬいぐるみを持ってきたMさん。旅行に行ったときのおみやげを持ってきたS君。卓球の試合で使ったラケットを持ってきて素振りをして見せたT君。原稿を見ながら話す子、暗記して話す子等など様々です。一人ひとりが終わるたび、子どもたちは、ほっとした表情を見せました。必死で追いこんだK君は、ツール・ド・能登(サイクリング競技)に参加し、多くの人がへとへとになる急坂を1度も歩かず最後まで走り通したことを、はにかみながら話してくれました。その表情からは何とも言えない充実感が漂ってきました。また、1学期はおとなしくてほとんど目立たず、いつも聞き取れないくらいの小さな声で話していたNさんが、家族で旅行に行ったときの様子やその時の気持ちを、写真を見せながらメモを全く見ないではっきりと話してくれました。教師である私のしたことはストップウォッチを片手に、30秒、45秒でカードを振ること、1分の終わりを告げることだけでした。
スタートダッシュはバッチリ!
一人ひとりにとって価値ある出来事を、みんなで共有できたことは、夏休みでバラバラに生活していた子どもたちのつながりを回復したにとどまらず、そのつながりを一気に強固にしたように思えました。私は「2学期のスタートダッシュはバッチリ!運動会はもらった」と思いました。また、たくさんの人の前で話すことは、授業の感覚を取り戻すのに役だっただけでなく、「みんなで授業を創りあげていこう」という意識作りにもなりました。1分間スピーチで夏休みの思い出を語らせた私のもくろみは成功裏に終わったのです。
なんでもかんでも1分間スピーチ!
それからの私は、機会さえあれば何にでも1分間スピーチを取り入れました。社会の歴史では「私の好きな戦国武将の紹介」、国語の「守る、みんなの尾瀬を」では「長靖の生き方から学んだこと」等など。2回目以降は1分間スピーチの後に、付箋紙に感想を書いて渡してくるように指示し、児童相互の交流タイムを設けるようにしました。戦国武将という共通項から、その武将が好きな理由の違いへ話がおよぶ中で、子どもたちはそれぞれの思いの違いを聞き分けていきました。時間を有効に使いながら、楽しみながら思考に広がりと深まりを得ることができました。
付箋紙は「聞く」を鍛える!
話すことで「何をどのように伝えるのかを判断できる力を育てたい」「みんなで創りあげていこうというクラス意識を高めたい」と思って取り入れた1分間スピーチ。そこに付箋紙を1枚加えるだけで「聞く」が鍛えられ、思考に深まりが見られることが実感できました。今後も1分間スピーチを効果的に取り入れ、付箋紙使いのプロをめざし、がんばっていきたいと思っています。
そうそう、やんちゃ坊主のK君は、あの時以来、付箋紙2束を筆箱の中に持ち歩くようになったんですよ。足りなくなって借りた時もありました!(返してない!!) |