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キーワードで読む情報教育 19
ポートフォリオ
〜ポートフォリオだけが評価法ではない〜
中川一史のキーワードへの道案内  
総合的な学習が本格的にスタートして、関心(実践研究)の中心が課題作りから評価に移ってきた感がある。(それも過ぎて、「総合から教科へ」かな?)
その総合の評価の主役に躍り出たのがポートフォリオ評価だ。ポートフォリオとは、もともと書類や作品を入れるファイルのことを意味する。よく建築家などが次の仕事で自分のこれまでの実績を見せるために自分の作品をファイルにした写真などでクライアントに示す。そのポートフォリオを、特に総合的な学習でのよりよい評価法として活用しようという試みがさかんに行われるようになった。ポートフォリオについては、そのよさも課題もあると思うのだが、ここではそれだけをとりあげるよりも、そもそも、今評価を行う上で何を考えるべきなのか、本稿ではそのへんにスポットをあてて述べてみたい。

■評価の難しさ
このごろ、筆者が校内研究に入っている学校では、評価研究の難しさに直面することが多い。特に話題の中心は総合的な学習だ。いくつか傾向は見られるが、そもそも教科の目標、単元のねらいが明確にある教科学習に対して、「問題解決能力の育成や自らの生き方を考えることを第一義」にし、「全員が身につけなければならない知識や技能が細かくあるわけではない」総合的な学習は評価をすることが難しくて当然だと言える。しかし、だからこそ各学校で「つけたい力」を明確に、意識的に位置づける必要があるわけだ。そのような意味では、子どもの学びを評価するのは、つけたい力の抽象・具体のレベルにポイントがある。たとえば、「コミュニケーション力をつける」では3年生にも6年生にも大切になるわけだが、これだけでは評価のしようもない。ある学校では、これをいくつかの具体に落としている。たとえば、「コミュニケーション力をつける」1つとして、「相手に自分の思いを伝える」をあげている。さらにそこから、高学年では、「メディアの特性を理解して効果的に自分の考えを伝える」と「自分の考えの根拠を示して主張する」を明記している。ここからは、具体的な総合の1つひとつの活動の中で、ねらっている子どもの姿がどのように見てとれるか、ということとのすり合わせになる。もちろん、これらのつけたい力は総合だけの問題ではない。国語や社会にもからんでくる。そう考えると、小学校では自分が担任をもっている学年について、総合と教科についての「横のつながり」を見通していく必要がある。

■評価は何のためにするのか

評価は何のためにするのか・・・一度ここから考え直してみるのも良いだろう。筆者は、子どもの視点と教師の視点でこのことを考える必要があると思っている。
子どもたちにとっては、「子ども自身の励み、自信」(今)になり、「次の活動への見通し、活力」(次へ)になるために評価を行うわけだ。評価を行うことによって、子ども自らの学びが阻害されたり停滞されたりすることは本末転倒になる。また、教師にとっては、短期スパンでは「教師の子ども理解を深め、次の対応策や指導・助言のあり方を改善・工夫するために」行うのであり、長期スパンとしては「教師のカリキュラムの見直しのために」行うわけだ。子どもたちの評価を行ったら、あまりかむばしくないとしたら、それは教師の授業デザインやふるまいに原因がある、ということだ。

■最終的にどんな姿をめざすのか?

子ども自身がいろいろな場面で振り返るとき、最終的にはどんな姿を教師はイメージしているのでしょうか?私は「いずれは一人でいろいろな評価の情報をもとに自分で自分のことを振り返り価値づけが行えるようになることを目ざしている」のではないかと思う。(タイトルにもなっているポートフォリオはまさにそれを実現する評価法の1つととらえることができる。)
そうなると、自己評価力を育てる教師の支援をどのようにするのかが大事になってくる。とは言うものの、子どもにとって、自分の状況を自分自身でモニターするのはかなり高度な話である。自己評価に、相互評価や専門家などの他者評価がどのように効果的に組み合わせられていくかが重要だ。また、評価場面での教師との対話もポイントになる。たとえば、子どもたちが自己評価カードを書いていれば良い、ポートフォリオの素材を集めていれば良い、のではなく、なんでも否定的に書いてしまう子、見てしまう子には「ここはこんなにがんばっていたでしょ」と教師が励ましの言葉をタイミングよくかけてあげることも大切だということだ。

■評価のコストパフォーマンスを吟味しよう
総合的な学習で評価について特に先進的に実践研究を深めている学校を見れば見るほど、1つの危惧を感じる。それは、「評価をいっしょうけんめいやればやるほど評価のための評価になっているのではないか?」ということだ。教師もだんだん評価に追われて苦しくなる。当然、子どもたちも苦しくなるわけだ。そこで、教師サイドで校内全体で、今やっている評価が「何を評価し、判断し、実際に何が得られるか」について吟味する節目を入れる必要がある。評価する行為が実際は子どもたちの活動の妨げになっていないか?振り返りカードのなど量、内容、タイミングは適切か、ポートフォリオ評価が子どもの次の活動に効いているのか、などについて、検討していく必要がある。どこかで原点に戻ってじっくり見直す機会が必要なのだ。
中川一史(なかがわひとし)金沢大学教育学部教育実践総合センター助教授
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