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キーワードで読む情報教育 19
ポートフォリオ
〜ポートフォリオだけが評価法ではない〜
レポート2
The End of 「WS&PA反抗期]
鷲山 靖
(金沢大学教育学部 助教授)
鷲山 靖
子供の頃から反抗的だった僕は、再び反抗期を2001年に迎えました。Portfolio Assessment反抗期(略してPA反抗期)です。前回のCG反抗期の終焉は1995年でしたので、だいたい僕の自覚的反抗期は5、6年周期で発生するようです。

僕は今年40才になるので、人生80年の重要な折り返し地点の反抗期としてこの「PA反抗期」を大切にしています。このPA反抗期の誕生の瞬間を自分なりに分析した結果、25才の時の新採研の折に誕生したWork Sheet反抗期(略してWS反抗期)を思い出しました。新任教師7、8人のグループにおいて「指導と評価」をテーマに一番ふけていた僕は、司会をさせられたのでした。

「指導と評価について、現在、具体的に取り組んでいることがあったら、話してください。」
「今、○○の題材でワークシートをどのような構成にするか悩んでいます。ワークシートを授業で使っている方で工夫している事があったら、教えてもらいたいんですけど」
「ワークシートって?」
「・・・・・」(おまえは知らんのんかという視線)
「持ってきているので、出します」
 
配られたプリントは、中学校○○科の虫食いのプリントでした。
(な〜んだ、知ってるよ。机の奥で20cmくらいの堆積岩になってたぜ)
 
すかさず、
「私は、ノートに必ず貼らせて、学期の終わりにノートを提出させてチェックしています。」(ドキッ)
「私は、板書とワークシートを関連させ、毎時間の授業感想も書かせるようにしています。」
 
などなどいろんな工夫が紹介されました。時間が過ぎて司会が話し合いをまとめることになりました。
「みなさん、いろいろワークシートによる指導と評価を工夫して強化されているんですね。これだけ授業でワークシートを使われたら生徒のペンだこは大きくなりますね。」
「・・・・・」(もう、司会はしないでくれという視線)
(なんなんだ、今日はワークシート教信者の集まりか?)
 
僕は虫食いプリントを教師Aに返しながら、自分は授業にワークシートを使わないことを誓いました。と同時に握手して、自分がワークシートを中学生の時から拒否して生きてきたことを思い出させてくれたことに感謝しました。

さて、PA反抗期について。それから13年後、WS反抗心が深層心理化した2001年、僕の前に再びワークシートいやワークカードが出現しました。

ワークシートは、B4サイズからB6サイズのワークカードにバーションアップしていました。ポートフォリオ的評価という小学校図画工作科の研究実践で用いられていました。う〜ん、ワークシート教団の新たな宗派だろうか。毎回、授業者がワークカードを集めてコメントを記入しているとのこと。う〜ん、堆積岩にはならんな〜。どのワークカードにも授業者が写した制作途中の作品写真が貼ってある。おっ、どのワークカードにも文章がしっかり書いてある。う〜ん、WS反抗心が再燃するぜ。えっ、ポートフォリオ評価はワークシートや学習資料、調査して作成した資料をどんどん、どんどんファイルしていって、学びをふり返るぅ!!WS反抗心の火がPA反抗心に燃え移ったぜ、PA反抗期元年じゃ〜。と思っていたのに、どこでどうなったのか内地留学のN先生と共同で研究実践することにしました。(あれっ)N先生はポートフォリオ評価研究実践校の視察から帰ってくると目が輝いています。どうも総合的な学習の評価としてポートフォリオ評価は注目されているらしい。

そもそもポートフォリオ評価とは、なんなのだろう。というのは、ポートフォリオ評価における児童生徒用ポートフォリオとは、美術科教育においては、制作中の作品であり、アイデアを描き綴ったり板書や先生の話をメモしたり学習資料・ワークシートを差し込んだスケッチブックなどに相当します。これをもとに美術科・図画工作科の教師は、主に観察や面接を通して指導・評価しているのです。また、児童生徒は制作中の作品や完成作品をもとに自己評価や相互評価をおこなっています。さらに、ポートフォリオ評価における教師用ポートフォリオとは、美術科・図画工作科の教師が日ごろ作成している教材関連の資料や生徒作品写真などを差し込んだクリアーファイルに相当します。教師は、これらをもとに授業実践を自己評価するとともに新たな教材を開発実践しているのです。なんだ、ポートフォリオ評価とは、美術科教育のいいとこ取りじゃないかとPA反抗期は、絶頂期を迎えました。

あるゼミの時、N先生からルブリックについて報告がありました。これじゃ〜。ルブリックとは、学習目標にもとづく評価規準をさらに段階化した評価基準を児童生徒がわかりやすくした文章や具体的な事例を意味します。美術科教育における指導と評価に関する二大課題である「指導と評価の客観性と信頼性の向上」「児童生徒の自己評価サイクルの構築」がルブリックによって解決できるかもしれないと思ったのです。

おいしいお弁当をつくろう
おいしいお弁当をつくろう
早速、N先生と僕と大学院生は、ルブリックに着目した小学校での実験授業を企画しました。4年生対象の「おいしいお弁当をつくろう」(材料は各種の紙)というポピュラーな題材です。実験授業をおこなったN先生は、授業においてはルブリック(児童には「めあて」という言葉を使用しました)の板書・提示はもちろん、ルブリックをわかりやすく説明した各種ビデオを児童用ノートパソコンで好きな時に観させたり、毎回ルブリックを意識させるワークカード1枚を使用したりしました。このワークカードは必要最低限の内容にし、文章記述をなるべく少なくしました。またワークカードはリングで束ねてあり、前回のワークカードを活用して学びを振り返る工夫がなされていました。そして、授業者はルブリックを意識して、作品制作中の児童に対して指導・評価をおこないました。同時に授業者は毎時間、ルブリックを意識した自分の指導・評価の様子を自分の手に持ったデジタルビデオカメラで録画し、授業後、児童ごとにパソコンで編集し、自己の指導・評価をふり返り、次回の指導・評価に役立てました。児童の学習活動の評定においては、ルブリックを評定の柱として、ワークカード、完成作品、N先生のノートパソコンに保管された「完成作品のデジタル画像と指導・評価の様子を録画したビデオ」(実践題材に関する教師用デジタルポートフォリオ)が資料として用いられました。最大の成果として、

これまでの図画工作科の時間で活動に集中できず数々の問題行動を起こしていた児童が、別人のように表現にチャレンジしたこと
前年の同一題材と比べ、作品レベルがボトムアップしたこと
ルブリックの説明ビデオをノートパソコンで観たことを児童が高く評価したこと

があげられます。

僕はこの実験授業を毎回、給食も楽しみに観察し、ビデオ撮影をしました。ベテランのN先生の一人ひとりに対する細やかな指導と評価の実践場面において、ルブリックという明確な表現目標・表現イメージが児童に伝わったため、これまで苦手意識を持っていた児童や表現意欲の低かった児童が、しっかりと表現活動に取り組めたのだと思います。

 

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